窮地に立たされるとは、こういったときのことを言うのか。
ふと、頭の端で考える。それどころではないというのに、次々とまったく関係のない思考が生まれ出る。それは決して、余裕、ではない。
じりじり。気づけば背中がこつり、冷たい壁に当たっていた。これ以上、後ずさることは不可能だった。逃げられない。――それが逆に、言い訳になるのかもしれなかった。
土方は顎を上げ、目の前に迫る男を見やった。
彼の双眸はひどく真摯であって、まるで迷いのない眼差しで己を捕らえていた。彼――近藤の瞳に映る土方の姿は、意外にも無表情で(そう、尽くしていたので)落ち着いているように見えた。
事実は、そうではなかった。
土方の身体は実は小刻みに震えていて、喉が張りついたみたいに声は出ないし、指先が、冷たい。
土方は人差し指の腹で、数度畳を擦った。神経質そうな、乾いた音が小さく響く。
そんな無意識の行動を、骨張った指に覆われたために止められてしまった。そうして初めて、自分の行なっていた挙動に気づくのだ。
「……俺、は」
視線を泳がせる。まだ、迷っているのだろうか。自問自答する。しかし既に、答えは出ていたはずだった。
こんな、まどろっこしく、逃げる真似をしなくても。
そろそろと畳から手のひらを持ち上げた土方は、その指で近藤の頬を撫でた。やけに熱かった。
「いい、よ」
土方が頷くと同時に、噛みつかれるような、接吻けを受けた。
「いいの、」
再度繰り返される問いかけに、思わず笑ってしまってから土方は、もう一度強く、頷いた。