「……ほんとに乗るの」
「なんだよ、乗せてくれねェのかよ?」
「いやそうじゃなくてあの、危険、じゃないのかなーと思いまして」
「へーきだって、アンタにしがみついてるから」
――いや、だからそういう意味ではなくて。
飄々と言ってのける土方に、自転車にまたがったままの近藤は言葉をなくす。
そんな近藤に気づいているのか気づいていないのか、土方は颯爽と近藤の後ろ、後部の荷台へと尻を落とした。
その際にひらりと舞った紺色のスカートに、近藤は知らず眉根を寄せた。
「……ちゃんと、さあ」
「ん、ちゃんとつかまる」
がっちり。腰に回される腕に心臓を跳ね上げさせながら、近藤はいやいや違う! と首を横に振る。
「スカート! スカートまくれないようにすンだぞ!」
ちゃんとつかまるのは、いい。しかし、それによって疎かになったスカートの行方、風に揺らめくその具合が、どうにも気になって。
というか、はっきり言って、厭だ。
たとえばそれによってあらわになる太腿の白さなど。日の下にさらけ出して良いものでは、ない。
なかなか漕ぎ始めない近藤に、そんなことまったく頓着していないふうに土方が嘆息する。
「ったく。あんまりオッサンくせーこと言うなよ」
「オッサンて言うな。そして臭くもありません」
土方が再びため息を落とすのが聞こえる。その後に紡がれた言葉に、近藤は自分の耳を疑った。
「わかった。そンじゃアンタの膝の上に乗る」
「……!?」
苦しいほどに強く回されていた腕がゆるりとほどけ、背後から人の気配が消える。
とん、と地面に降り立った土方が、自転車にまたがる近藤の、さらに膝の上に乗ろうと肩に手をかけてくるので、近藤は顔を引きつらせた。
「わかった! わかったから後ろに乗って!」
冗談じゃない。膝の上に抱っこ状態で、自転車を漕ぐなんて!
慌てふためく近藤に、土方は不満げにひとつ鼻を鳴らし、大人しく元通り荷台へと身を落ち着かせた。
先刻はしがみついていた両腕が、今度は待っても、来る気配はない。
不思議に思って振り向いた近藤は、いささか俯き加減の土方が、ほんのりと唇を尖らせているのを視界に入れた。
その手はしっかり、スカートの裾を握り込んでいる。
近藤は笑って、後ろ手に土方の手首をつかんだ。
「しっかり、つかまってろよ」
自分の腰に土方の手を置いて、ぽんぽん、と宥めるように軽く叩く。
ゆっくり自転車を漕ぎ始めたとき、こくりと小さく頷いただろう頭が背中にこつりとぶつかって、近藤は知らず唇を緩ませた。