010:月のない夜
月のない夜、音もなく布団から這い出た土方は、障子を開けて暗闇をぼんやり眺めた。
漆黒の空には月の片鱗すら窺えない。昼間の熱気を忘れさせる、薄ら寒い夜気が素肌につきまとう。
「トシ、風邪ひくぞ」
何も身に着けていないでいると、背後から自分を案じる声がして、土方はゆっくりと振り返る。
そのまま布団の中にいる男――近藤をじっと見やれば、彼は訝しげに首をかしげた。
「……トシ?」
「アンタ、太陽みたいだ」
突然の土方の言葉に近藤は面食らったように目を見開いた。
「……そうか?」
「ああ」
土方は恭しく頷いた。
そう、近藤は太陽のようだった。真選組に陽光をもたらす、必要不可欠な。そして自らを照らす、希望。
「それじゃー、トシはさしずめ月ってとこかな」
「つ、き」
「ああ。月は人を惑わす力を持ってる。俺はおまえに惑わされてばっかりだ」
近藤の思いがけない殊勝な言葉に、今度は土方が瞠目する番であった。
「そう……そうだな」
土方は近藤の元へと歩み寄り、そっとその頭部を胸にかき抱いた。
「月は太陽がねえと、自分じゃ光ることはできねーからな」
06.06.20