005:ゆびきり
「なァトシ、前に新しくラーメン屋ができたって言っただろう」
 不意に近藤が、土方の顔を覗き込んできた。
 数日前、そのようなことを近藤が言っていたなと思い出した土方は、こくりと頷いた。
「ああ、それがどうしたんだ」
 確かそのとき、近藤はこうも言っていた。
 ――店の前を通り過ぎたときな、チラッと中を覗いてみたんだ。そしたら綺麗な女の人が働いててなァ。
 嬉しそうに話す近藤とは対照的に、土方はなんだそれと渋面を作ったのだった。
 今もそう、無意識に不機嫌に眉をひそめる土方に、しかし近藤は微笑みかける。
「今度行かないか、ふたりで」
 ふたりで、という魅力的な言葉に土方はすぐさま頷いてしまいそうになったが、はたと我に返る。
 どうせその女店員を見たいがために誘っているだけだ。なんで俺がそんなミーハー気分のお供に行かなくちゃなんねェんだ……。
「行かねェよ、俺は。女の尻追っかけンだったらひとりで行ってくれ」
「え。女?」
 きっぱり断ると、近藤はきょとんと目を丸くする。それから以前自分が言った言葉を思い出したのだろう、苦笑を漏らす。
「ああ、違うって。あの女の人はとっくに辞めちまってていねェんだよ。ただ単に、おまえとラーメン食いたかっただけだ」
「……ふうん、」
 なんでその女が辞めてしまったことを知っているのかとか、ほんの少し疑問に思ったが訊かないことにする。
 土方は緩みそうになってしまう口許をきゅっと引き締めて、「それじゃあ行ってもいいぞ」と重々しく首肯した。
「それじゃあトシ、」
「……?」
 目の前に小指を突き出され、その意図がわからずに土方が目を眇めると、近藤は「ほらおまえも」と焦れたふうに土方の指をつつく。
「約束、だ!」
 つまりゆびきりをしよう、というわけか。
「……ったく、ガキじゃねえンだから」
 思わず苦笑しながらも、土方は小指を近藤のそれにそっと絡ませた。


06.06.18